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民主党政権の化けの皮を剥ぐ 三橋貴明(作家、経済評論家)

海外メディアの日本批判を国内新聞が報道しない

 三橋 しかし、現実問題として、外国のメディアは日本のことをボコボコと叩き始めています。しかし、そういう日本批判を、国内の新聞が絶対に報道しないので、日本人は気付かないんです。

 就任早々、鳩山さんの奥さんの幸夫人が、海外のメディアでは、かなり嘲笑されていました。「寝ているあいだに、私の魂がUFOに乗って金星に行った」とか、「トム・クルーズと前世は一緒」などというトンデモな発言を大々的に報道しています。ここにはおそらく、アメリカの意向が絶対あるはずです。日本が盧武鉉政権下の韓国みたいになるなら、それは許さないということです。韓国は、盧武鉉でも許されていました。それは韓国の力が弱いからです。しかし、世界のなかの大国である日本が盧武鉉政権下の韓国のようになったら、世界のバランスが壊れてしまいます。そういう意味では、残念ながら海外メディアのバッシングが日本に飛び火することを期待せねばならないかもしれませんね。逆説的な話ではありますが。

 そして、その海外メディアの批判も、内容的にまともなものが多い(笑)。「こういうデフレのときに、公共事業を削るのはおかしい」とか、じつにまともな批判が書かれています。かつては非論理的で情緒的な批判がありましたが、最近は非常に論点明確な批判で日本を叩いています。以前は、「『フィナンシャルタイムズ』、何様のつもりだ。自分の国のことでも心配していろ」と思っていたのですが(笑)、最近は、こういう海外メディアの批判に反論ができないんです

 八木 ワシントン・ポストは「アメリカにとってもっとも厄介な国は中国ではなく日本だ」というアメリカ政府高官のコメントを掲載しましたしね。それから『Voice』の九月号に載った鳩山論文「私の政治哲学−祖父・一郎に学んだ『友愛』という戦いの旗印」が、ニューヨークタイムズ電子版に抜粋されて、物議を醸しましたね。これに対して鳩山さんは、自分に連絡なく勝手にやられたと述べています。そして、恣意的な引用をされていると主張しています。しかし、別に改竄したものではありません。ただ、文脈を飛ばして刺激的なところばかり載せているのは事実です。ですから、全体を読んだほうが、穏やかな印象を受けるようです。日本人のなかにも、最初に『Voice』を読んでいない状態で『ニューヨークタイムズ』の記事を読み、これは酷いと驚いて『Voice』を読んでみたら、そこまで酷いことは書いていないという印象をもった人もいたようですね。

 三橋 おそらく、アメリカ側が削ったんでしょうが、ある種の悪意があると思わざるを得ないですね。「こんな反米な首相が就任した」と大騒ぎするためにやったということでしょうか。

 八木 そうだろうと思います。悪意のある抜粋ですね。

 三橋 また民主党政権は、とにかく「非核」を声高に主張しています。

 八木 アメリカの核の傘は何のためにあるのかというと、それは中国や北朝鮮の核から日本を守るためにあるわけです。これを「いりません」というわけですから、日本が独自に核武装するか、中国や北朝鮮の同盟国になるかのどちらかということです。後者をめざすということでしょうか。

 三橋 結局、国民の福祉とか、繁栄を考えたら、別にアメリカの傘の下にいることに、日本としては何の不都合もありません。しかし、それをわざわざひっくり返すというのですから、やはり革命なんだと思います。

民主「原理」主義

 八木 先ほど述べた鳩山首相の憲法改正試案には、なかなかいいこと書いてあります。鳩山さんのホームページを見ると、「憲法改正試案の中間報告」として出ています。読んでみましょう。

「何事によらず原理主義には気をつけたほうが良い。とくに民主「原理」主義には、ジャコバン党の昔から幾つも前科があり、要注意だ。もともと民主主義は、全ての人民が統治の主体でもあり客体でもあるという実行不能のフィクションに基づく。だからこれを極端に突き詰めていくと、かつての共産主義諸国家のような全人民の名を僭称する独裁政党による支配をも生み出すことになる」

「民主『原理』主義を野放しにしておくと、人民の名を僭称するさまざまな独裁や極端なポピュリズムの惨禍を招く。その抑制力となるのが伝統原理なのである。エドモント・バークのいう保守主義も、言い換えれば、伝統的なるものに信頼をおき、民主主義の原理的な行き過ぎに歯止めをかけようという立場である」

 じつに素晴らしい内容ですが、しかし、現状の民主党は「民主原理主義」以外の何ものでもないように見えます。いまの状況は、まさに鳩山首相が書いたとおりの「全人民の名を僭称する独裁政党による支配であり、人民の名を僭称するさまざまな独裁や極端なポピュリズム」ではないでしょうか。

 三橋 今回の政権は極端なポピュリズムの典型ですよね。冷静に考えてみれば、民主党には3300万人しか投票していないわけで、逆に7000万人近い日本人は民主党に投票してないわけです。それにもかかわらず、自分たちのマニフェストを「国民の命令書」などと称して絶対化するのは、きわめて危険です。

 八木 「もともと民主主義は、すべての人民が統治の主体でもあり客体でもあるという実行不能のフィクションに基づく」。この分析もなかなか正確な分析ですね。長妻昭さんなどは、いままでガンガン政府を批判してきました。要するに統治の客体であったわけです。彼は、客体側の論客であったわけです。しかし、今度は彼らが統治の主体側にいくわけです。これはだいたいもともと実行不能なフィクションです。だからこれから何かいろいろとおもしろいことが起きます。

 三橋 そうですね。ただ、外交、経済の問題を考えると、まったく出口がないような状況になるでしょう。怖いのはその間隙を縫って、皇室典範の問題や人権侵害救済法案、夫婦別姓法案、外国人参政権など、変な法案を通して来るところでしょう。

 八木 そうです。次の政権で、自民党が政権に復帰したとしても、簡単に動かせないようなものを埋めていくでしょうね。これは深刻な問題です。

 三橋 通常、政権運営最中の中間選挙というものは、与党に不利なんです。ですから、時期的に、2010年の7月の参院選では、民主党が厳しくなる可能性もある。参院選で勝てなければ「ねじれ国会」の再現ということになりますが、しかし、そういう状況であっても着々と進んでいくような不気味な種をそれまでに植えていくのでしょう。

国家戦略局って結局、何?

 三橋 いまだによくわからないのが、菅直人さんが就任した国家戦略担当大臣というポストです。まともに考えたら、予算が全部ここで決まるということになります。しかし、どうもそうではないらしい。マクロ経済政策を立案していた経済財政諮問会議を廃止して設立したわけですが、その部分で何かを新たにやっているかというと、そこもよくわからない(笑)。

 八木 理屈のうえからいえば、総理の下に国家戦略局が置かれて、その下に内閣官房が置かれるという構図です。だからこの国家戦略局というのが、ものすごい力をもつという仕組みです。各省庁の上に位置づけられるというわけです。先にも述べましたように、いまの日本国憲法下の内閣制度では、内閣総理大臣の権限がものすごく強い。全閣僚の任命権をもっているのですから何でもできる。だから、官邸機能を強化し、あるいはそこに権限を一元化しておけば、日本の総理大臣はかなりのことを行なうことができます。しかし慣行上、それがこれまでできなかったのです。むろん、小泉政権下の一時期はそれができていました。いわゆる郵政選挙のときは、小泉総理が反対する閣僚を罷免して衆議院解散の閣議決定をしました。しかし、その後はそこまでする人はでなかった。憲法上の総理大臣の権限をときの総理が十分に使えなかったといえます。

 今度の民主党政権では、総理大臣の権限を小泉政権時より、さらに強化するわけです。経済財政諮問会議というのは名前のとおり、主として経済財政関係を官邸でしっかり決めていこうということでした。しかし、国家戦略局というのは、すべてをそこがやるというわけですから、したがって、ここが動き始めたら何でもできる。政策の優先順位も決定できます。とにかく第一に人権侵害救済機関をつくれといったら、それで決定です。予算配分もそこが全部決めるといっているわけですからね。

 しかも大統領制と違って、議院内閣制というのは、議会の多数派と政府が実質上は一体になります。大統領制だと、大統領と議会との対立関係がありえますし、そこでチェック機能も働きます。しかし議院内閣制では、そうなりにくい。加えて、この国家戦略局ができあがったら、これはもう日本国憲法も全然想定していなかった事態が出てきたというふうにいっていい。内閣総理大臣が「何でもできる」うえに、国会であれだけ議席を占められたら、その政権のチェックができなくなってしまうのですから怖いですよ。まさにジャコバン派的な独裁、民主原理主義です。

 三橋 私は個人的には、この国家戦略局が民主党政権のボトルネックになるのではないかと思っています。結局、この構想は実現できないでしょう。いくらなんでも、国家戦略局だけですべてを決定することなどできるはずがありません。そうすると、何も進まないというような結果もありうるのではないでしょうか。

 怖いのは、国家戦略局で財政の支出の優先順位を付けて、予算を付けていったときに、お金が足りなくなるという事態です。ある日予算が尽きたということで、残りの何もかもがばっと支出が止まったりしないでしょうか。そういうことも起こり得るんじゃないでしょうか。きわめて歪んだ状況になることが予想されます。

 もっとも、現状では国家戦略局が機能していないぶん、各省が勝手に予算を出してきて、結果として概算要求が過去最大の95兆円というのですから、「いったい何をやっているのか」というところですが(笑)。

 八木 民主党のマニフェストを見ても、政策の整合性がなく、場当たり的に国民受けしそうなものばかり並べているという印象ですからね。いくらなんでも、もう少し考えているのだろうと思っていましたが、蓋を開けてみたら何も考えていなかったことがよくわかった(笑)。

 ちなみに一般メディアが選挙前から一貫して強調していたのは、じつは霞が関改革です。国民がいちばん期待しているのは、霞が関改革だと報道しつづけたわけです。

 三橋 しかし、いずれにせよ実際の行政執行は現場の人たちがするわけです。官僚がそっぽを向くと、何もかもビタッと止まるしかない。官僚は政治家に反対することはできないでしょうけど、サボタージュはできる。そこで逆に何も進まなくなる事態も考えられます。実際改革は進むかもしれませんが、その改革のあと、実際に行政がスムーズにいくかどうかは予断を許しません。むしろ随所でストップする方向にいきそうな気がします。

 八木 霞が関改革は必要だというのは、多くの人の共通した考えだと思います。たしかにいまのような「天下り」や「渡り」の状況を見れば、「いやだな」「汚いな」と思うのが庶民の感覚というものです。働いてないのに、あんなに退職金もらうのかと思うと、それはおもしろくないわけです。だから、そういうところだけの改革をやってくれるのであればいいんですが、むしろ日本郵政の社長人事や人事院総裁含みの人事官人事を見ていると、その部分の改革には消極的のようです。大物官僚やそのOBを就任させている。呆れてものがいえない。

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