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農業には日本を変える力がある 木内博一(農事組合法人「和郷園」代表理事)

農協は、産地間競争で重要な役割を果たす

 私たち和郷園では、農協を通さずに、マーケットに直接販売をしている。その方式で一定の成果を上げているため、「農協は不要だ」とか「農協が、農業にとっての諸悪の根元だ」という受け止め方をされることもあるが、それは間違った認識だ。

 農協を悪者にしたからといって、日本の農業が再生するわけではない。農協が多額のマージンを取っていて、そのために消費者や生産者が損失を被っているかのように思っている人もいるようだが、それは間違いである。

 そもそも、農協だって、儲かってはいない。農協の集出荷部門は赤字である。スタンドやサービス部門も赤字である。農協が利益を出しているのは、主に金融部門。保険販売などで利益を上げているのが実態だ。

 農協の役割は、地域によって差がある。私が耕作をしている千葉県は、すぐ隣に東京という日本最大の消費地があり、農協を通さなくても、自分で農作物をマーケットまで運んでいくこともできるから、和郷園のような、農家が自律した仕組みも成り立つ。

 しかし、たとえば北海道のように消費地からの距離が遠い地域では、農家が自分で消費地まで作物を運んでいくことは難しいから、地域のとりまとめ役が必要となる。その役割を農協が担ってきたのだ。消費地が遠いところでは、地域農家の集合体としての農協は、依然として必要な存在である。

 また、農協は産地間競争でも重要な役割を果たしてきた。産地が一つのブランドとなり、そのブランド産地での農産物の育成を農協は支援してきた。

 私の地元千葉県のある農協(JA)では、キュウリとトマトを中心に扱っており、キュウリは、日本最大の卸売市場である大田市場で注目を集めるブランド農作物だ。一方、隣町のJAではサツマイモとニラを中心に扱っている。隣町でもキュウリをつくれるのだが、そのJAのキュウリが2,000円程度で取引されるとすると、隣町のキュウリは、1,000円〜1,500円程度に下がってしまう。ほとんど同じ土壌でつくった農作物でも、ブランド産地の名前がつけば高く売れるのに、ブランドがつかない隣の地域でつくると、値段が下がってしまう。

 農作物のブランドを維持し、産地間競争に勝ち抜くために、JAは大きな役割を果たしている。

 もちろん、農協には問題点もある。それは「消費者ニーズは特定作物にとどまらない」ということに起因する問題だ。

 消費者は、料理をつくるときにキュウリだけを求めているわけではなく、トマト、ナス、ピーマンなど、同時に多くの食材を求めている。だから、農家としては、キュウリもつくりたいし、ナスもつくりたいし、ピーマンもイモもつくりたい。消費者ニーズを見ながら、ニーズに合った多様な農産物をつくりたいと思うのは自然なことである。

 しかしながら、地元の農協が、特定農産物の産地ブランドを維持するために一部の農作物のみに集中して扱っていることがある。前述したJAは、キュウリとトマトの二品目、隣町のJAはイモとニラの二品目だ。だから、隣町でキュウリをつくった人は、農協で扱ってもらいにくいのである。

 これが、農協が抱えている課題の一つである。産地ブランドを高めようとするあまりに、その農作物だけに力が入りすぎて、それ以外の農作物のニーズ(消費者のニーズもあるし、農家のニーズもある)には応えられないケースが出ている。

農協の課題は、組織が巨大で変化に即応できない点

 農協には、取扱品目の課題などはあるが、あくまでも産地間競争に勝つためでもあり、やむを得ない面がある。業務内容そのものに関しては、農家の発展の阻害要因となるようなことは、農協は何もしていない。みな農家のためになるようにと考えてやってくれている。

 農協に課題があるとすれば、業務内容そのものではなく、組織規模の大きさによるものではないかと思う。

 わかりやすく言えば、私たち和郷園は未上場の零細企業、それに対して農協は上場大企業のようなものである。大企業には大企業なりの強みがあるが、組織が大きいため、きめ細かい消費者ニーズには対応しきれないし、新しいことに取り組もうとするときには、合意形成に時間がかかる。画期的な戦略を打ち出そうとしても、多くの人が参加しているから、全員に納得してもらえるとは限らない。妥協の産物としての当たり障りのない戦略を打ち出さざるを得なくなることが多いようだ。

 その結果、画期的な動きやスピーディーな動きがとれず、その分、利益を呼び込むこともできなくなっている。意思決定に時間がかかりすぎて、手遅れになったりしているケースもあるようだ。これが、農協の抱える最大の問題点だ。

 それに対して、我々和郷園は零細企業なので、小回りが利く。短時間で意思決定ができるし、決まったらすぐに動くことができる。マーケットの変化に対して敏感に対応できるのが強みである。

 私たちは、直接、消費者やスーパーの方などと話をさせていただくことが多く、「こういう野菜が食べたい」「こういう料理に使える野菜を、いつまでに、このくらいの量をつくってほしい」と要望を言ってもらえば、すぐに、その要望に沿った野菜の生産に取りかかり、在庫があれば、ただちに出荷をすることが可能だ。

 農協よりも組織が小さい分、変化へのレスポンスが早い――そこが大きな強みである。

 視点を変えて言えば、組合員の合意形成の過程で、意思決定を一任できるような強力なリーダーが農協に現れて、その人のリーダーシップのもとに変化に機敏に対応していけば、農協のほうが、和郷園よりはるかに大きな成長ができると思う。農協がバックボーンに持っている財力や人的ネットワークは、われわれ和郷園ではとても太刀打ちできるものではない。

 それらの強みを生かすための「変化に即応できる体制」さえできれば、農協の役割は、これまで以上に増すのではないだろうか。

農業者の意識の問題もある

 農業者の1人として、農業を取り巻く外部要因の厳しさを述べてきたが、農業の現状をすべて外部要因のせいにするつもりはない。農業を苦況に落ち込ませているのは、農家自身の意識にも原因があることは否定しない。

 一つは、「誰を見て生産をしているのか」という点である。

 以前、和郷園のメンバーとこんなディスカッションをしたことがある。

「私たちは、誰と競争しているのか」というテーマで話し合ってみたら、みんなが「それは、1軒1軒の農家だろう」とか「隣の家と競争しているんだよ」などと答えた。

 これは農耕民族の習性と言っていいのかもしれないが、誰もが隣の人を見て、競争をしてしまうのである。「隣よりも、うちが勝っているか、負けているか」ということが最も気になることであり、隣の農家に勝つことに血道を上げる。「今年は、隣の家よりも、収穫量が多かった」ということに生きがいを感じてしまう。

 農家以外のサラリーマンの人たちも同じではないだろうか。「同期のあいつより、ボーナスが10万円多かった」とか「同業他社は、うちより年収が100万円も多い」とか「隣の人は、家を建てて、マンションを出ていったのに、うちは……」など、つい隣の人と比べたくなってしまう。サラリーマンの人も、やはり農耕民族としての遺伝子を受け継いでいるのではないかと思う。

 マーケットが拡大している高度成長期には、隣を見ながら、隣との競争に勝てば、勝利の利益を得られた。隣の人も、こちらも、それなりの利益を得られたし、勝利した側は、さらに大きな利益を得ることができた。

 しかし、いまはそのような時代ではなくなってしまった。隣の人との競争に明け暮れているあいだに、マーケット全体がどんどん縮小していっている。たとえ隣の人に勝ったとしても、利益を得られないような状態だ。

「マーケットシェアではライバルに勝ったけれど、売上げ・利益は下がり、給料もボーナスも大幅カット」というような時代である。隣に勝っても、何のメリットも得られない可能性が高い。

 農業の世界でも、食の「供給」が「需要」を大幅に上回っている状態なので、隣の農家に勝ったとしても、真の勝者にはなれない。にもかかわらず、いまだに隣の農家を見て、「勝った」「負けた」という意識で農業を営んでいる人が多い。

 マーケットが縮小している今日、隣と争っている場合ではないと思う。お互いに利益を得られるように、一緒にマーケット開発を考え、そのなかで健全な競争をしていかなければいけない。マーケットリサーチをするにも、販路拡大をするにしても、1軒の農家単独では限界があるから、隣近所と協業して、集団で問題に取り組んでいく必要がある。それが、和郷園のような農家集団が必要になっている理由の一つである。

 農家は、「競争」から、緩やかな「協調」の時代に入っていることをよく認識しておかないといけないと私は考えている。

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