ストレスの原因が認識だということは、ストレスを軽くするためには認識を変えればいいということになるが、認識は変えられるものなのだろうか。
「ストレスや感情は、視覚的な記憶と結び付けられたり、ある特定の口調や声のトーン、身体の使い方とリンクしています。逆に、視覚的な記憶と感情とのリンクを断ち切ったり、口調や声のトーン、身体の姿勢を変えたりすることで、ストレスを感じたくても、感じなくすることができるのです」と、田中氏はいう。
すぐに実感しやすいものとして、田中氏は、目線の動きを意識することで脳の働きをコントロールする例を挙げてくれた。
「レモンを口いっぱいに入れたところを想像してみてください。酸っぱい汁が口のなかに広がります。そして、唾液が出てきます。
想像できましたか?
さて、いま、あなたの目線はどこを向いていますか?」
右利きの人なら右斜め下、左利きなら左斜め下を向いているはずだ、と田中氏はいう。
「次に、そのまま、30秒間、天井を見つめてください」
すると、酸っぱさがあまり感じられなくなり、唾液も減る。
「人間の身体の構造上、目線が下を向くと味覚が刺激され、上を向くと刺激されないようになっているからです。
目線と脳の働きには密接な関係があり、脳の働きによって目線は動きますし、目線を動かすことで、脳の働きも変わるのです」

では、ストレスを軽くするための具体的な方法とは、どのようなものなのだろうか。
「ストレスの認識を生む情報は、視覚、聴覚、体感の3つのチャンネルから入ってきます。ですから、この3つのチャンネルに介入すればいいのです」
「介入する」とは、自分がストレスを受けたときとリラックスしているときの状態を知ったうえで、ストレスを受けたときも、あえて、リラックスしているときの状態にすることだ。以下、具体的に説明しよう。
まずは視覚。田中氏によれば、人によって対応関係は異なるのだが、「カラーで思い出せば楽しい記憶、モノクロで思い出せば嫌な記憶」「動画なら楽しい記憶、静止画なら嫌な記憶」などと、脳は画像・映像の特徴と感情とを結び付けて記憶している。そこで、自分がストレスを感じたときの記憶はどのような画像・映像か、楽しいときの記憶はどうかを把握したうえで、ストレスを感じたときの記憶を、楽しい記憶の画像・映像の特徴で思い出すようにすれば、嫌な感情とのリンクを断ち切ることができる。
たとえば、嫌な上司を思い出すときはモノクロの静止画で思い出すという人であれば、その記憶に色や動きをつけてみることで、その上司と「嫌だ」という感情のリンクを切ることができる。
聴覚についても、自分がストレスを感じたときと楽しいときの口調やトーンを把握し、あえて楽しいときの口調やトーンで話すことで、ストレスを軽くできる。話す言葉自体は変えられなくても、口調やトーンだけでも効果があるという。
体感については、身体の使い方を変えてみる。やはり人によってストレスを感じたときの姿勢は異なるのだが、視線が下を向いて前かがみになる、などは一般的にいえる。リラックスしているときは、視線が上を向き、背筋も伸びているだろう。だから、視線を上に向け、背筋を伸ばすようにすることで、ストレスを断ち切ることができる。
また、姿勢を変えるだけなので、自分だけでなく、周りの人を助けることもできる。体を丸めて落ち込んでいる人がいれば、姿勢を改めてあげるだけで感情が変わり、立ち直るきっかけを与えることができるのだ。
さらに田中氏は、「人によって、視覚からの情報が多いタイプの方、聴覚からの情報が多いタイプの方、体感からの情報が多いタイプの方がいます。自分がどのタイプかを知ることで、どのチャンネルに介入するのが効果的なのかがわかります」という。
自分が「視覚タイプ(Visual)」か、「聴覚タイプ(Auditory)」か、「体感タイプ(Kinesthetic)」かを知るために、田中氏がセミナーの受講者などに答えてもらっているのが「VAKテスト」だ。
たとえば、「つい最近、上司(同僚、友人)との会話でもっともよく覚えているのは」という問に対して、「相手の顔の表情」「相手が使った言葉や言い回し」「相手から伝わってきた感情やフィーリング」の3つの選択肢から答えを選ぶ。1つ目であれば視覚、2つ目であれば聴覚、3つ目であれば体感の情報が記憶に強く残っているということだ。
このような問にいくつも答えていくことで、自分がどの感覚から情報を多く得ているのかを知ることができる。育ってきた環境や職業に影響されるもので、どのタイプだからいい、悪い、というものではない。
田中氏によれば、日本人には体感タイプが多く、「空気を読む」ことを重視することにも、それが表われているのではないかという。一方で、握手など、他人と接触する文化がないので、体感タイプがストレスを溜めやすいのではないか、とも指摘する。
ちなみに、イタリアでは、女性は視覚タイプが多く、男性には聴覚タイプが多いのだそうだ。そのため、「髪型を変えたのに気づいてくれない」という女性に対して、「毎日、電話をしているのに、何が不満なんだ」と男性が答えるようなすれ違いが多いという。
田中氏はさらに、コミュニケーションによるストレスを軽くする方法も教えてくれた。
「コミュニケーションによって傷ついたり、傷つけたくないのに相手を傷つけてしまったりするのは、9割方、『目にみえること』に触れずに、『目にみえないこと』をいってしまうからです」
たとえば、仕事中にガムを噛んでいる人に対して「お前、やる気ないだろう!」と叱ったとしよう。目にみえるのは「仕事中にガムを噛んでいる」ということだけだ。しかし、それを「やる気がない」という目にみえないことに解釈して、それだけをいったわけだ。すると、何の悪気もなくガムを噛んでいたとすれば、その人は傷ついてしまうだろう。
「仕事中にガムを噛むのはやめろ」といわれれば、なぜ叱られたのかも明確だし、どうすればいいのかもはっきりとわかる。
「叱るのも、謝るのも、物を頼むのも、コミュニケーションの際には、必ず、『いつ、どこで』という環境と、『何をする、した』という行動に触れなければなりません。それなしに、相手の能力や価値観など、目にみえないことだけを伝えることによって、相手を傷つけてしまっているのです」
以上、本稿では田中氏の『ストレスゼロ・テクニック』について簡単に要点をまとめたが、田中氏のセミナーでは、より具体的な方法を紹介している。自分のストレスにどう対処すればいいのか、上手なコントロール法を知りたいと考えている方は、知っておいて損はないだろう。

提供 : (株) ヒューマンスキル・アカデミー 『THE21』2011年10月号(PHP研究所刊)より転載
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