
PHP総合研究所
常務取締役 永久寿夫
9月末、米国下院が7千億ドルの金融安定化法案を否決した。経営者が超高額な給料をもらいながら金融危機を招いた「ウォール街」を税金投入で救済する理由はない、という一般感情を反映した結果である。バブル崩壊にもがき苦しんだ日本の姿と重なる光景だ。数日後に修正案が通過し、「世界恐慌」の起爆は避けられたものの、当日のダウ平均は過去最大の下げ幅を記録。大打撃を受けた世界市場は混乱が続いている。
一般国民を「生活者」と呼ぶ意味不明の言葉を因数分解すれば、投資家・消費者・勤労者となる。投資家としては高リターンを、消費者としては低価格高品質を求める。そのため企業は効率化を進めざるをえない。こうした要求に応えられる経営者は少ないから彼らの給料は上がる反面、リストラで勤労者の生活は厳しくなる。ローン返済が滞り、消費も減退する。景気は悪化し、高リスクの金融商品を引き金に不安が生じる。グローバル化と金融技術の異常な進展があったとしても、危機の責任の一端は世界中の「生活者」にもあるわけで、救済に大声で異を唱えられる筋合ではない。
NHKは「夫が残した6千万円を全額株式に運用したが、株価急落で途方にくれている」と語る主婦を同情の視線で報道した。「大切なお金がなくなるかもしれない株式に全額運用するのがおかしなことで同情できない」というコメントが敬愛する金融専門家から届いた。異議なしである。ただ、一方で救済される連中を見れば釈然としないのが人情というもの。自己責任で始めたマネーゲームの「被害者」を救済していては市場も財政も成り立たぬが、認識の甘さによる個人の悲劇を防ぐための検討は全体の危機を防ぐ意味でも必要であろう。
永久寿夫(ながひさ・としお/株式会社PHP総合研究所常務取締役)
略歴:1982年慶應義塾大学法学部卒業。スタンフォード大学ロシア・東欧学修士、カリフォルニア大学(UCLA)政治学博士。著書に『ゲーム理論の政治経済学』、『スラスラ読める日本政治原論』など。杉並区行政評価検討委員会委員、神奈川県経営戦略会議委員、東京外国語大学非常勤講師などを歴任。関西大学客員教授を務める。国家経営研究本部長を兼務。
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