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第26回「『中国、エネルギー消費世界一』に対する中国の反発」

国際戦略研究センター主任研究員 前田宏子

 7月に、英紙フィナンシャル・タイムズがIEA(国際エネルギー機関)の報告として「2009年度のエネルギー消費量で、中国はアメリカを抜いて世界最大になった」と報じて以降、中国の政策担当者やメディアからは反論や疑念の声が上がっている。8月初めに中国国営メディアに転載された『中国経済週刊』の記事(※1)は、これまでの中国側の反論をまとめた形になっているので、以下、その要約を紹介する。

 中国の政策担当者や研究者は、IEAのデータにはいくつか過ちがあると指摘している。たとえば(1)農民が燃料として使用している薪や藁を、IEAは自分たちの推測に基づいて計算しており、実際よりも水増しした数字になっている、(2)中国が実施している省エネや新エネルギーへの取組みに対するIEAの理解が不十分である、(3)IEAと中国国家エネルギー局の統計の方法は異なっており、IEAのそれは中国の実態に適していない、などである。
 そもそも、毎年IEAが11月頃に発表している年次報告書「エネルギー展望」の内容の一部がこの時期に、しかもアメリカと中国のエネルギー消費量という議論を呼びそうな部分が公表されたのはなぜなのか。その背景には、年末にメキシコ・カンクンで開催される国連気候変動会議に向けて、「中国は世界最大のエネルギー消費国」という国際論調を盛り上げ、中国に圧力をかけ、より多くの譲歩を引き出そうという欧米の政治的思惑がある。
 IEAはOECD(経済協力開発機構)の枠内にある“先進国クラブ”であり、中国が実施している省エネや新エネルギー開発への取組みに対する理解が不足しているが、中国の動向に対しては、機構自身の利益という観点から重大な関心を抱いている。中国や他の新興国のエネルギー消費量増加に伴い、IEA加盟国の比率は下がり、IEAの存在意義そのものが問われるようになっている。エネルギーの需要がアジアに移転していく中、もし中国が加盟しなければ、IEAの重要性は益々低下していくだろう。中国は先進国がコントロールしている多国間枠組みに参加することには以前から慎重である。なぜなら、それは中国の「途上国大国」としての地位に適合せず、途上国の支持を失うことにもなるからである。
 IEAがカンクン国連気候変動会議の前に、このような敏感な問題を“不注意に”漏らしたのは、このことによってIEAの重要性を顕示し、中国に対し早期の加盟を促すためである。しかし、中国は自国の必要に基づいて適切な選択をすべきであり、外界からの圧力に屈するべきではない。

 以上が、記事の要約である。IEAの報告の内容の一部が公表された背景に、政治的思惑があるという中国側の主張の真否については分からないが、その可能性は否定できない。しかし、中国がIEAの報告を否定する根拠については疑問を感じる。
 中国の当局者らは、IEAの内容のいくつかに誤りがあると指摘しているが、自ら中国のエネルギー消費について具体的な数値やデータを示したわけではなく、「中国が最大のエネルギー消費国ではない」ということも証明できていない。中国は、IEAの数値が実体に基づいていないと批判するが、その批判は、それらのデータを十分に公開していない中国政府自身にも帰するべきところがある。経済や環境に関するデータの公開が不十分であり、統計のあり方に問題があるという点については、外国人のみならず、中国国内の研究者からも批判がなされている(※2)。
 中国政府も、中国の統計に多くの問題があることは認識しており、たとえば上述の記事と同日付の別の記事(※3)では、中国の省や直轄市が発表した上半期のGDPを合算すると、少なくとも18兆8233億元(約237兆5千億円)となり、国家統計局が発表した17兆2840億元(約218兆1千億元)を1兆5393億元(約19兆4千億円)も上回るということを報じている。このケースには、地方政府の役人がGDPの数字を粉飾しようとする問題や、統計を扱う部門の独立性が担保されていないといった問題も関わっているのだが、いずれにせよ、中国の情報公開の不十分さが、中国自身の主張に対する信憑性を低める結果となっている。

 中国が、「エネルギー消費世界最大」を打ち消すのに躍起になっているのは、自ら述べているように、年末のメキシコ・カンクン気候変動会議に向けて、国際社会から圧力をかけられることを警戒しているからだと考えられる。正直、多くの日本人にとっては「(エネルギー消費)世界1位だろうと2位だろうと関係なく、真面目に気候変動や環境問題に取り組んでほしい」というのが率直な感想だろう。だが確かに、欧米のメディアなどでは、これまで約100年間、アメリカが世界最大のエネルギー消費国であったのに、中国がそれに取って代わった(かもしれない)ということが、何かしら象徴的意味を持つかのように報じられている。
 昨年12月にコペンハーゲンで開催された気候変動会議(COP15)では、中国は途上国の支持を集めて強気の姿勢を貫き、環境問題に熱心な国々から批判を浴びた。特にアメリカのオバマ政権は、対中関係を重視し、中国と対話を重ねることでグローバルな問題についても中国から協力が得られるものと期待していたが、COP15での中国の対応には、深い失望と不満を抱いたといわれている。昨年の教訓から、今年のカンクン会議では、中国に対する圧力と要求がより強まることが予想され、それゆえ中国政府も、IEA報告に関する報道に過敏に反応しているのだろう。

 世界は、中国の国力が増大するにつれ、中国が「責任ある大国」として振る舞うことを期待するが、この記事でも見られるように、中国国内のメディアは、いまでも中国が「途上国」であることを強調し、「大国としての責任」は中国に対する不当な要求、あるいは中国の発展を阻害するための陰謀と論じるものが少なくない。だが他方では、「中国の加盟しないIEAは意義を失う」というように、国際社会における自国の影響力の増大を喧伝しもするのである。ここからは「責任を果たす」という意識は生まれえず、このバランスの悪さが、中国国内に歪んだナショナリズムを育みはしないか心配である。中国は、いい加減、「途上国」として自国を位置づけることを諦めるべきであり、先進国ではないが既に途上国ではない国、相当の国力を有する国として、相応の責任を積極的に果たしていく姿勢に転じるべきである。そうでない限り、中国の発展が“脅威”と結び付けて捉えられる見方が無くなることはないだろう。

  •  ※1)「西方媒体熱炒中国能源消費 誘我強制減排?」『新華網』2010年8月2日。
  •  ※2)胡鞍鋼「中国の環境革命は日本を潤す」『Voice』2010年4月号、126頁参照。
  •  ※3)「地方GDP統計一人一桶水,人多水分大?」『新華網』2010年8月2日。

(2010年08月09日掲載。*無断転載禁止)
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前田宏子(PHP総合研究所主任研究員)

略歴:1996年大阪大学法学部卒業。1999年京都大学法学研究科修士課程修了。同年、PHP総合研究所入社、中国外交や日本の安全保障政策の研究に従事。2003年中国清華大学へ留学、04〜05年にかけて中国社会科学院当代中国研究所訪問研究員。2005年より慶應義塾大学グローバルセキュリティーセンター客員研究員、07年より同大学現代中国研究センター研究協力者。

前田宏子(PHP総合研究所主任研究員)

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