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第24回「『中国強硬論』は誤りか」

国際戦略研究センター主任研究員 前田宏子

 アメリカの新しい政権は、中国に対し厳しい姿勢をとりがちである。自由や人権、民主主義を信奉するアメリカの指導者が中国に妥協的な姿勢を見せれば、アメリカ国民の目には弱腰の大統領と映るからである。しかし、最初は中国に対し様々な注文をつけていた大統領も、政権をとってしばらく経つと、中国との協力を必要とする事態に直面するようになり、より協調的な対中政策へと方針を変更していく。クリントン大統領もブッシュ大統領もそうであった。

 しかしオバマ大統領はこれまでのパターンを破り、政権発足当初から中国との関係を重視する姿勢を示した。人権や人民元レートの問題でも非常に抑制した態度をとり、米中関係は順調に推移しているように見えていた。だが、昨年末頃からCOP15での対立や台湾への武器売却、ダライ・ラマとオバマ大統領の会見、グーグル検閲など問題が立て続けに発生し、両国間に暗雲が漂うようになっている。

 ただし、米中間に恒常的に存在するこれらの問題を巡り、軋轢が生じるのは想定の範囲内であり、オバマ政権は両国関係が決定的に悪化しないよう事態の鎮静化と関係の修復を望むだろうし、中国も同様だと思われていた。

 その予測が間違っていたとは今でも思わないが、想定外だったこともある。それは中国の反応が予想していたよりずっと強硬だったことだ。中国政府は、少なくとも表向き、これらの問題について譲歩する姿勢を全く見せていない。政府の公式見解や大衆のみならず、政策担当者や研究者までもが、いつもよりアメリカに対し厳しい見方を示している。いつもは、アメリカの“干渉”を苦々しく思いながらも、このような問題は定期的に起こる持病か発作のようなものと諦め、両国の安定した関係を志向する合理的な人々ですら、オバマ政権に対する評価が厳しい。対中関係を重視するオバマ政権に対して、そのような評価を行うのは意外だという気がしたのである。

 その理由の一つには、中国人が自信をつけてきたことがやはり関係していると考えられる。世界が成長著しい中国に注目し、その一挙一動について海外メディアが大きく報じる。中国の書店には『チャイナ・ドリーム』『次に世界のリーダーとなるのは中国か』『アメリカ後の世界』『貨幣戦争』『大国中国』などの書籍がうず高く積まれている。中国人が自信を深めるのも無理はない。私自身は中高生だったのでよく分からないが、今の中国の雰囲気を80年代バブル期の日本のそれに例える人もいる。

 中国の指導者は、中国が「大国」として担ぎあげられることを警戒し、中国はいまだ途上国だということを強調する。温家宝首相は全人代後の記者会見で、中国国内にはまだ多くの問題が山積しており、中国が大国になって強硬になってきたという“中国強硬論”は間違いだと否定した。中国のエリートも、中国が国内に多くの脆弱性を抱えていることを認識しており、「アメリカと中国の国力は、比べるべくもない」と言いはする。だが、たとえ彼らでも、社会全体の雰囲気から無縁でいることは難しいのだろう。

 また、オバマ政権にとっては皮肉なことだが、政権が最初から中国を重視する姿勢を取り、両国間の問題にあまり触れないようにしたことが、かえって逆効果となった面がある。個人の関係でも、ほとんど評価していなかった人物が期待以上の働きをすると、非常に良い印象を抱いたりする。逆に、期待していた人物が思っていたような働きができないと、実際以上にその失点が大きく感じられる。ある中国人研究者は「オバマ大統領は非常に合理的で優れた人物だと思っていたが、いまや評価は地に落ち、ゼロである。我々はオバマという人物がどのような思想・方針をもっているのか、一から検討しなければならないと考えている」と話していた。

 今後もしばらく人民元レートやイランの核問題をめぐり、米中関係はぎくしゃくとするだろう。中国が、これらの問題で妥協する見込みは益々小さくなっている。しかしそれでも、何カ月後かには、米中関係は改善の動きを見せるのではと推測される。米中が互いに弱みを握りあっている現在、両国関係の深刻な悪化は自らにダメージとなって還ってくるからである。

 オバマ政権は、今後も中国との対話を重視し、中国が協調的なプレーヤーとなるよう促すという政策を継続していくだろうから、表向き対中政策に大きな変更が生じたようには見えないかもしれない。しかし、「中国を国際社会における責任ある大国として扱い、対話を重視しコミュニケーションを増やしていけば、中国は協調的な国になる」という期待にさした翳りは、目立たないながらも、ゆっくりとアメリカの対中政策に影響を及ぼしていくのではという気がするのである。

(2010年03月24日掲載。*無断転載禁止)
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前田宏子(PHP総合研究所主任研究員)

略歴:1996年大阪大学法学部卒業。1999年京都大学法学研究科修士課程修了。同年、PHP総合研究所入社、中国外交や日本の安全保障政策の研究に従事。2003年中国清華大学へ留学、04〜05年にかけて中国社会科学院当代中国研究所訪問研究員。2005年より慶應義塾大学グローバルセキュリティーセンター客員研究員、07年より同大学現代中国研究センター研究協力者。

前田宏子(PHP総合研究所主任研究員)

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