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第21回「オバマ訪中:変化する米中関係と覆い隠せぬ齟齬」

国際戦略研究センター主任研究員 前田宏子

 11月半ば、オバマ米大統領が大統領就任後はじめてアジア諸国を歴訪した。中国訪問には滞在先の中で最も長い4日間を費やし、クリントン国務長官やロック商務長官、チュー・エネルギー長官も同行するなど、オバマ政権の対中重視姿勢を示す訪問となった。

 東京で行ったアメリカのアジア政策に関する演説において、オバマ大統領は「アメリカは中国を封じ込めることを求めてはいない」と述べ、胡錦涛国家主席との会談後に発表した共同声明では「新時代の米中関係」を強調し、核不拡散や地球温暖化などグローバルな問題で米中が協力を深めていくことを確認した。

 中国国内では、アメリカが中国封じ込めの意図はないと表明したこと、アメリカが中国を「より対等」に扱ったことなどを評価する声が大きい。逆に、アメリカや中国以外の国では、オバマ大統領が人権問題や人民元、為替政策などについて中国に要求すべきことをせず、譲歩しすぎたのではないかという批判も見られる。ブッシュ政権は米中関係について「constructive, cooperative, candid(建設的、協力的、率直)」という方針で臨んだが、オバマ政権は「positive, cooperative, comprehensive(積極的、協力的、包括的)」という方針を掲げ、「率直」(に問題について話し合う)は落ちてしまったとマイケル・グリーンCSIS日本部長は述べている。米中の力関係は変化しつつあり、協力の範囲が包括的になっているのは確かだ。だが同時に、今回のオバマ訪中では米中間の齟齬が隠しようもなく人々の目にさらされることになった。

 オバマ大統領と胡錦涛国家主席が共同で記者発表を行った際の光景もその一例である。新時代の米中関係という内容に似つかわしくなく、両首脳の態度は奇妙に淡々としたものだった。オバマ大統領は中国に対して、人権の重視、ダライ・ラマとの対話などを求め、アメリカは台湾関係法に基づいて台湾との関係を処理すると述べた。かたや胡錦涛国家主席は、米中は「共通だが差異ある責任」を有していると述べ、アメリカが主張する「共通の責任」を修正し、中国は保護貿易に断固反対するとしてアメリカに釘をさした。そうして両首脳はお互いの主張を言いっぱなしにしたまま、質疑応答の時間を設けず記者会見を終了した。

 良好な米中関係を印象づけるため、オバマ大統領は上海で学生と対話を行い、北京では故宮や万里の長城を訪れ、中国の歴史と文化に対し敬意を表するというイベントも組み込まれた。だが、上海での対話で、オバマ大統領がネット上の検閲を批判した発言は中国国内では当初配信されず(批判を受けたせいか、後で追加された)、気骨ある報道で知られ中国知識人に人気のある『南方週末』との単独インタビューも、中国当局によって掲載が差し止められた。インタビューで、オバマ大統領は言論の自由の重要性について語ったと言われている。大統領は、中国民衆に直接語りかけることによって中国の問題を指摘しようとしたが、中国側によって阻止される結果となったのである。

 このような中国の対応を、中国の強気と捉える見方もある。だが、私の目には強気というより、アメリカが導こうとしている流れに乗らないよう、中国が必死に抵抗している姿のように映る。アメリカは、中国はいまやグローバルに影響力をもつ大国なのだから、それに見合う責任を果たすべきだと中国に求めている。中国も、環境問題や北朝鮮・イランの核問題などについて、以前に比べれば積極的にアメリカと対話するようになっているが、胡錦涛国家主席が「共通だが“差異ある”責任」を強調し、温家宝首相がG2論について否定的見解を示したことにも見られるように、負担を背負わされるのは避けたいと考えている。

 北京大学の賈慶国教授は、米中関係に生じつつある新たなチャレンジとして「アメリカの中国に対する要求が日ごとに高まっている。かつてアメリカは中国国内の問題について改善を求めていたが、いまでは中国国外のグローバルな問題について中国に行動を求めるようになっている。だが、中国はそれらの要求すべてに応えることはできない。今後、アメリカが中国に対する期待と要求を高めていき、中国はそれらの期待に応えることができず、アメリカが失望して、米中間に軋轢が生じるという事態が生じるかもしれない」と述べている(※)。

 アメリカ大統領の発言を改ざんしたり差し止めたりするのが、アメリカ、ひいては国際社会の目にどう映るか、中国もまったく考慮しなかったわけではあるまい。うがった見方かもしれないが、中国は“異質”の部分をある程度示すことで、アメリカの期待と要求が過度に高まるのを抑制できるのなら、それもよいと判断しているのかもしれないとも思える。もちろん、背景には、これくらいのことでは現在の米中協調の趨勢は変わらないという見通しがあっての上だろう。

 実利で強く結び付き、経済的に抜き差しならない関係となった米中間には「互いに、この関係を悪化させ利益を損なうような行動は取らないはず」という、ある種の信頼関係が成立しつつある。とはいえ、両国に理念の共有はなく、中長期的には不確実な部分が多すぎて不安が残るという面は変わらない。中国の隣国として長い交流の歴史をもち、アメリカと理念・価値観を共有し、中長期的にみて安定している日本は、外交的にみて実はそれほど悪い条件下に置かれているわけではない。だが、政府の国際情勢に対する認識が現実とずれており、誤った認識にもとづいて外交を行おうとするなら、日本の行き詰まり感は払しょくできないのではないかと心配である。

(※)2009年8月13日、PHP総合研究所での発言。
   賈慶国教授の講演内容は、http://research.php.co.jp/etc/049/ に掲載。

(2009年12月02日掲載。*無断転載禁止)
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前田宏子(PHP総合研究所主任研究員)

略歴:1996年大阪大学法学部卒業。1999年京都大学法学研究科修士課程修了。同年、PHP総合研究所入社、中国外交や日本の安全保障政策の研究に従事。2003年中国清華大学へ留学、04〜05年にかけて中国社会科学院当代中国研究所訪問研究員。2005年より慶應義塾大学グローバルセキュリティーセンター客員研究員、07年より同大学現代中国研究センター研究協力者。

前田宏子(PHP総合研究所主任研究員)

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