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第18回「中国の軍事費「世界第2位」に思う」

政策総合研究部主任研究員 前田宏子

 スウェーデンのストックホルム国際平和研究所(SIPRI)が毎年発表している年鑑によると、昨年度、中国の軍事費はついに世界第2位になったそうである。その前年の時点ですでに3位であったし、中国の国防費は二ケタ成長を続けてきているので、近いうちにこうなることは分かっていたが、それでもやはり「世界2位」のインパクトは大きい。

 中国は、2007年の第17回党大会で「富国と強軍の統一」という言葉を掲げ、経済成長と国防建設を同時に推進していく方針を示した。「国防の基盤となる経済をまず優先する」という、それまでの��小平の方針を変更したのである。

 中国の国防政策や国防費の増大についてどう思っているか中国人に尋ねると、ほとんどの人が支持を示す。ネット上でも「国家の安全が確保されて、ようやく安心することができる」、「中国の軍備はまだ劣っているので、今後も能力向上に努めるべき」というような意見が多いし、実際に中国人が自国の国防費について批判するのを聞いたことがない。

 中国政府は、中国脅威論を打ち消すために「中国の国防は防衛的で、中国は決して覇権を求めないし、平和を尊重する」と繰り返している。そして、例えば空母建造については「中国の国民や企業がグローバルに活動するようになり、それらの安全と利益を守るため」と主張する。

 しかし、自国民や企業がグローバルに活動しているのは何も中国だけではないし、それらの国々が、みな空母を持とうとするわけではない。また、現在の国際情勢下で、中国に武力攻撃をしかけるような国は存在せず、中国自身、近い将来に大規模な紛争が発生する可能性は極めて低いと認識しているはずである。「防衛のため」というには、国防への投資が過剰であると言わざるをえない。中国のある軍事専門家は、「富国は強国であるとは限らない。強国には強軍が欠かせない」と述べているが(『新華網』09年4月30日)、この言葉には中国人の心情がよく表れていると思う。

 21年間、二ケタ成長を続けてきた中国の軍事力は急速に強化されつつある。ある中国研究者は、経済政策を軽視した晩年の毛沢東の国防政策を「頭でっかちで足腰が弱い」と評し、「��小平が国防の基盤たる経済を優先し、国防については“忍耐また忍耐”という方針を選んだのは正しかった」と述べていた(『光明日報』09年5月11日)。だが、私の目には、中国の国防政策はいまだに「頭でっかち」のように映る。「富国と強軍の統一」、つまり経済成長と国防建設の協調だけでは不十分で、そこには「社会の安定」が加えられるべきだろう。“中国国民は国防予算について概ね支持を示している”と先述したが、実はこの問題について、路上で暮らす人々や地方の農民の意見を聞いたことはほとんどない。もし彼らに「中国の国防費増大をどう思うか」と尋ねたら、異なる答えが返ってくるのではないだろうか。

 これまで、中国はグローバルな問題や国内の矛盾に取り組むよう指摘されると、「中国はまだ途上国で、問題解決のための能力がない」と弁明してきた。確かに、少し前までの中国は、沿海部の成長がいくら華やかに見えても、少し内陸に入れば貧しい人が圧倒的に多く、中国政府の財源も限られていた。しかし、今の中国には、問題解決のための資源と能力が集まるようになってきており、ましてや世界第2位の軍事費拠出国である。「途上国だから」という言い訳は、ますます通用しなくなっている。

(2009年6月17日掲載。*無断転載禁止)
PHP総合研究所Webサイト【http://research.php.co.jp/】(PCサイト)

前田宏子(PHP総合研究所主任研究員)

略歴:1996年大阪大学法学部卒業。1999年京都大学法学研究科修士課程修了。同年、PHP総合研究所入社、中国外交や日本の安全保障政策の研究に従事。2003年中国清華大学へ留学、04〜05年にかけて中国社会科学院当代中国研究所訪問研究員。2005年より慶應義塾大学グローバルセキュリティーセンター客員研究員、07年より同大学現代中国研究センター研究協力者。

前田宏子(PHP総合研究所主任研究員)

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