トップ頁 > PHPからの主張 > 中国コラム:第15回「文化財の競売をめぐる中仏の騒動」

PHPからの主張

PHPからの主張TOP

研究最前線

中国コラムバックナンバー

中国コラム

第15回「文化財の競売をめぐる中仏の騒動」

政策総合研究部研究員 前田宏子

 チベットや人権問題をめぐって冷却化していた中仏関係に、新たな騒動がもちあがった。故イブ・サンローラン氏らが所有していた清朝の銅像が競売にかけられ、中国人が猛反発しているのである。

 十二支の鼠と兎をかたどった二つの像は、もとは北京の円明園に設置されていたが、アロー戦争(1856-60)のときに国外に流出したらしい。円明園は、イギリス・フランス連合軍によって破壊され、中国人にとっては列強の侵略を象徴する場所となっている。

 銅像が競売にかけられることを知った中国政府は、銅像の返還を求め、中国人弁護士らは競売の中止をパリ地裁に提訴したが、地裁はその訴えを棄却、銅像2点は3140万ユーロ(約39億円)で落札された。

 不法に国外に流出した文化財の取り扱いについては、国際法でも確立した見解があるわけではない。植民地支配を受けた国々では、国外に持ち出された文化財の返却を求める声が大きいが、流出時の経緯や違法性の問題など考慮すべき点も多い。何より、流出から時間がたって文化財の現所有者が合法的な手段でそれを取得している場合、財産権の保護や取引の安定性の問題とも抵触する。大英博物館などは、所蔵品のほとんどが国外から運び込まれたものだが、人類共通の文化遺産として、それらを位置づけているようである。いずれにせよ、文化財が返却されるケースの多くは、法的処理によるものではなく、外交的配慮や政治判断、あるいは所有者の善意によって実現している。

 今回、この問題が中国国内で猛反発を引き起こした背景には、中国人の対仏感情が悪化していたのに加え、サンローラン氏のパートナーで、銅像の出品者であったピエール・ベルジェ氏が「もし中国が人権とチベットの自由、ダライ・ラマ14世の受け入れを認めるなら、(銅像を)中国に贈与する」と発言したことがある。ある問題が議論となっているときに、別の問題を引っ張り出してくるのは、手段としては姑息だと言わざるを得ず(たとえ中国の人権状況に問題があるのは事実だとしても)、適切な発言だったとは思わない。とはいえ、ベルジェ氏は政府関係者でもフランス国民を代表しているわけでもない。さらに、ベルジェ氏の意図がどうだったかは知らないが、フランス側には「チベットや人権問題で中国を批判している国はほかにもあるのに、フランスだけが見せしめにされている」という不満がある。

 後に、銅像を落札したのは中国人で、この人物が代金の支払いを拒否するつもりらしいということが明らかになった。中国世論や政府が、それを「愛国的行為」と讃えるようなら、中国のイメージがさらに悪化するのは間違いないと思ったが、幸いそうはなっていないようである。讃える声も確かにあるが、「中国のイメージや信用を損なう」という批判の声が意外に大きい。オリンピックを経験した効果もあるのかもしれない。

 中国では言論の自由は規制されているが、インターネット上での議論は盛んで、外交政策にも影響を及ぼすようになっていると言われている。中国の政策に影響を及ぼしたいと考えるなら、これまで以上に、中国の民衆の考え方を理解し、彼らに働きかけていく努力が必要である。

(2009年3月11日掲載。*無断転載禁止)
PHP総合研究所Webサイト【http://research.php.co.jp/】(PCサイト)

前田宏子(PHP総合研究所主任研究員)

略歴:1996年大阪大学法学部卒業。1999年京都大学法学研究科修士課程修了。同年、PHP総合研究所入社、中国外交や日本の安全保障政策の研究に従事。2003年中国清華大学へ留学、04〜05年にかけて中国社会科学院当代中国研究所訪問研究員。2005年より慶應義塾大学グローバルセキュリティーセンター客員研究員、07年より同大学現代中国研究センター研究協力者。

前田宏子(PHP総合研究所主任研究員)

中国コラムバックナンバー

WEB特別企画

「GreenWorkplace」で実現する「節電でも成果が挙がる働き方」 東日本大震災による影響で、東日本を中心に全国的に節電に取り組む必要が出てきた…

「我慢する節電」から「快適な省エネ」へ

今日から効果が上がる「ストレスゼロ・テクニック」とは?
社内や取引先との人間関係、重いノルマや責任など、ビジネスマンはストレスにさらされ続けている。ストレスを抱えていると仕事のパフォーマンスが悪くなり、さらなるストレスを生むこともしばしば…

つらい環境や嫌な相手は変えられなくても、ストレスは軽くできる!

「コンプライアンス」という言葉はきっと耳にしているはず。だが、その意味するところをほんとうに理解しているだろうか? 日本にコンプライアンスの考え方が本格的に導入された時点から、そのルールづくりに携わってきた野村修也先生に、誤解されがちな「コンプライアンスの真の意味」についてうかがった。

誤解したままでは、会社も個人も思わぬ失敗に陥る可能性が……

温室効果ガスの削減など、環境問題に注目が集まるなか、石油はともすれば「悪しき要因」としてばかり取り上げられがちである。しかし、無資源国であるわが国にとって…

低炭素社会に向けた石油産業の取り組み

悩める個人投資家に朗報!
元為替チーフディーラーの両雄が�牴射鄙蠑譴任眈,討覘疆蟷駛,鯏按貉愼遏�

普通のサラリーマンのための賢いFX投資&ツール活用術

WEB連載

木内博一 (農事組合法人「和郷園」代表理事)

当連載が本になりました!
『最強の農家のつくり方』(定価1,470円)
「農業界の革命児」が語る成功の方程式と日本再生への構想をぜひ、ご一読ください。

『最強の農家のつくり方』

斎藤 環(精神科医)

フィクションとリアルの混同とは何か。サブカルチャーに精通する精神科医が、映画、漫画、小説などから読み解く現代世相
第2回 あらゆる関係はS−Mである

「虚構」は「現実」である

野口悠紀雄(早稲田大学教授)

「オフショア」「タックスヘイブン」の姿を知ることで、日本経済の問題点と進むべき道が見えてくる!
第2回 タックスヘイブンは存在悪か?

『現代版宝島物語――「オフショア」の秘密』

通販のユーコー

ビットウェイ・ブックス

ビデオ アーカイブズ プラス

トップ頁 > PHPからの主張 > 中国コラム:第15回「文化財の競売をめぐる中仏の騒動」