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第9回「“五輪妨害テロの予告”ニュースに「嬉しい」?!」

政策総合研究部研究員 前田宏子

 北京オリンピック開幕日の8月8日、このコラムで何を書こうかと思案していたところ、インターネット上で驚くものを見つけてしまった。ある大手インターネット・プロバイダーのホームページを見ていたら、「中国五輪にイスラム組織のテロ予告」というニュースの見出しが出ており、その前に「嬉しい」を表す顔のマークが付いていたのである。

 そのサイトでは、ネットユーザーがニュースに対して抱いた感想について、「嬉しい」「怒った」「哀しい」「呆れた」「驚いた」のいずれかを選択して送信し、最多の回答が「顔」マークとして表示される仕組みになっている。テロ予告ニュースに「嬉しい」マークがついているのをいぶかしく思った私は、その詳細を見てさらに驚愕してしまった。テロ予告を「嬉しい」と答えた回答が2350にも上っていたからである。(数字詳細については注釈参照)。この投票は8月11日まで続けられ、最終的に「嬉しい」と投稿した人の数は7千余りに上った。ちなみに、そう答えた人のコメントのほとんどは「中国がテロに遭うのは当然」というようなものであった。

 インターネット上の出来事をおおげさに取り上げる必要はないと思われる方もいるかもしれない。たとえば中国のインターネットサイト上では、極端な意見や暴言、不満の掃き溜めのようなサイトが多く存在するが、それらが現実に大きな意味をもつわけではない。中国でネットのニュースに書き込みを行っているのは、教育水準が高くない人や低所得者層が多い。(サイトによって多少の違いはある。また大学生などはもっぱら大学の掲示板に書き込む。)中国の政策担当者や海外の中国研究者は、インターネット上における世論をチェックはしているが、中国社会の風潮を見るための参考とするにとどまっている。

 日本のネット上には、中国よりも多くの異なる意見やまっとうな議論が存在しているが、それでも中国と同じような問題を抱えていることは否定できない。それは匿名ゆえに発言に責任を持たずにすむという、インターネットの負の部分である。確かに、テロ予告に「嬉しい」と回答した人が、日本国民の意見を代表しているとは思わないし、偏執的な人がくり返し送信を行った可能性もある。また、サイト上には「嬉しい」と回答した人を批判するコメントも多く見られた。それでもやはり、「嬉しい」という回答が少数ではなく、これほどの数に上ったことは、憂慮すべき出来事であるように思われる。

 どのような理由であろうとテロが認められていいはずがないという当たり前のことを、ここで繰り返す気はない。いま問題にしたいのは、このような風潮が広がれば、日本の外交能力や評判が著しく損なわれてしまうではないか、ということである。

 台頭する中国に対し、日本はどのような外交を展開していくのかというのは、現在我々が直面している重要な問題の一つである。日本にとっての中国は“機会”としての側面と“不安”を抱かせる側面が混在しており、その将来は不確実性に満ちている。多くの側面について観察・検討したうえで、合理的な判断に基づき対中政策を決めていかなければならない。言うは易し行うは難し、とても冷静さを欠いて出来ることではない。また、(テロを「嬉しい」というような)浅はかな声が大きくなると、中国の人々の生活向上や社会の安定のために、日本が行っている正当な要求や主張すら、妬みや僻みからくる発言と思われ、日本の影響力が下がることにもなりかねない。

 日本の経済発展や民主主義は国際社会からも高く評価されている点で、BBCが行っている「世界にいい影響を及ぼす国」というアンケート調査でも、日本は上位に選ばれている。それは日本外交にとって非常に重要な資産であり、それを自らの手で損なうようなことをすべきではない。

※「中国五輪にイスラム組織のテロ予告」というニュースに対する投票数

  嬉しい 怒った 哀しい 呆れた 驚いた
8月8日 2350 1713 658 590 468
8月11日 7171 5565 2498 2438 1531

前田宏子(PHP総合研究所主任研究員)

略歴:1996年大阪大学法学部卒業。1999年京都大学法学研究科修士課程修了。同年、PHP総合研究所入社、中国外交や日本の安全保障政策の研究に従事。2003年中国清華大学へ留学、04〜05年にかけて中国社会科学院当代中国研究所訪問研究員。2005年より慶應義塾大学グローバルセキュリティーセンター客員研究員、07年より同大学現代中国研究センター研究協力者。

前田宏子(PHP総合研究所研究員)

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