政策総合研究部主任研究員 亀田 徹
東京都江戸川区で小学1年生の男児が両親から暴行を受け死亡するとの痛ましい事件から1か月ほどが過ぎ、今月3日に同区が事件の検証報告を行いました。報告書では、再発防止の取り組みの第一に現場職員の意識改革を掲げています。しかし、意識向上に取り組むだけで虐待事件を防止できるのでしょうか。
ある調査によれば、虐待に対応する学校と関係機関との連携がうまくいかないのは、「校内だけで対応できる」と学校が事態を過小評価してしまうこと、関係機関の介入による家庭との関係悪化を学校が心配することなどがその要因とされています。このため、連携強化の施策として文科省や教育委員会による指導通知の発出やパンフレットの配布、教員への研修などの取り組みが実施されてきました。江戸川区でも『明るい未来を子どもたちに』との児童虐待防止ガイドを一昨年の4月に作成しています。
事件の検証報告を見ると、学校や子ども家庭支援センターに「状況把握の甘さ」「認識の甘さ」「感度の甘さ」があり、「学校だけで抱えてしまった」「学校だけで判断し、子ども家庭支援センターへの情報提供を怠った」と書かれています。今後は、学校では「使命感をもち、子どもや保護者の理解を深め」「早期発見・早期対応に全力を尽くす」、再発防止のために区は現場職員の「意識改革をすすめる」としています。文科省も、事件発生直後に大臣メッセージと教育委員会あての通知を出し、学校と関係機関との連携を指導しました。
しかしながら、関係者への指導や研修は従来から実施されてきたことです。これらの取り組みが行われてきたにもかかわらず、今回の事件が発生しているのです。同じことを繰り返すのではなく、新たな対策を講じるべきと考えます。その1つは、連携を指導している教育委員会みずからが連携業務を担うこと。もう1つは、教育委員会が連携業務を行うために必要な指導主事を配置することです。
指導主事を増やして次のようなシステムを構築すれば連携不足を防ぐことができるはずです。不登校で子どもに会えないケースや家庭への対応が困難なケースがあれば学校は指導主事に報告することにします。学校と教育委員会とはふだんから連絡をとりあっているので、学校だけで抱え込むおそれは低くなるはずです。
報告を受けた指導主事は教員と一緒に家庭を直接訪問し、教育委員会の判断により関係機関との連携を行います。連携への躊躇をなくすため、個々の学校にまかせるのではなく教育委員会の判断で連携を進めます。教育委員会に連携業務を集約すれば、過去の事例のデータが蓄積され、事態の過小評価を防ぐこともできるでしょう。学校の負担軽減というメリットもあります。
国は、学校の出席状況などの情報を学校と関係機関との間で共有することを検討しているそうですが、それでは不十分です。なぜなら、情報を得たとしてもそれに対応する人材が不足しているからです。虐待に対応する児童福祉司が不足しており、その増員が不可欠であると以前のコラム(「教育委員会にも児童福祉司を」)で主張しました。あわせて、教育と福祉の枠組みを越えて児童福祉司を教育委員会に配置することも提案しました。けれども、早急に対策を講じる必要性が高いことを考えれば、教育委員会に児童福祉司を配置しなくてもせめて指導主事の人数を増やすだけでもよいと考えます。これならばいまの仕組みの枠内で実施できます。
児童虐待対応件数などをもとに試算すると、新たに配置すべき指導主事の数は全国で約1,300人、自治体が支出する人件費は年間約112億円となります。現状では、自治体の支出を増やすには国による地方財政措置が欠かせません。「いのちを、守りたい」と演説した鳩山総理の言葉が真実であれば、単に指導するだけでなく、児童虐待への対応のために最優先で財政措置を講じるべきです。
(2010年03月10日掲載。*無断転載禁止)
PHP総合研究所Webサイト【http://research.php.co.jp/】(PCサイト)
PHP総合研究所の最新情報はメルマガで⇒【http://research.php.co.jp/newsletter/】(PCサイト)
亀田 徹(PHP総研 教育マネジメント研究センター主席研究員)
略歴:1991年東京大学教育学部卒業後、文部省に入省。教職員定数、大学改革、生徒指導、学校図書館、人権教育、著作権制度などを担当。98年から2000年まで福岡県教育委員で高校教育を担当。文部科学省生徒指導室長を経て、2006年PHP総合研究所入社。学校経営を中心に、学校教育および教育行政の研究に従事。
「GreenWorkplace」で実現する「節電でも成果が挙がる働き方」 東日本大震災による影響で、東日本を中心に全国的に節電に取り組む必要が出てきた…
つらい環境や嫌な相手は変えられなくても、ストレスは軽くできる!
今日から効果が上がる「ストレスゼロ・テクニック」とは?
社内や取引先との人間関係、重いノルマや責任など、ビジネスマンはストレスにさらされ続けている。ストレスを抱えていると仕事のパフォーマンスが悪くなり、さらなるストレスを生むこともしばしば…
「コンプライアンス」という言葉はきっと耳にしているはず。だが、その意味するところをほんとうに理解しているだろうか? 日本にコンプライアンスの考え方が本格的に導入された時点から、そのルールづくりに携わってきた野村修也先生に、誤解されがちな「コンプライアンスの真の意味」についてうかがった。
温室効果ガスの削減など、環境問題に注目が集まるなか、石油はともすれば「悪しき要因」としてばかり取り上げられがちである。しかし、無資源国であるわが国にとって…
悩める個人投資家に朗報!
元為替チーフディーラーの両雄が�牴射鄙蠑譴任眈,討覘疆蟷駛,鯏按貉愼遏�
木内博一 (農事組合法人「和郷園」代表理事)
当連載が本になりました!
『最強の農家のつくり方』(定価1,470円)
「農業界の革命児」が語る成功の方程式と日本再生への構想をぜひ、ご一読ください。
野口悠紀雄(早稲田大学教授)
「オフショア」「タックスヘイブン」の姿を知ることで、日本経済の問題点と進むべき道が見えてくる!
第2回 タックスヘイブンは存在悪か?