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第30回「教育の安定性」

政策総合研究部主任研究員 亀田 徹

  北京オリンピックが終わりました。金メダルの数は前回アテネの16個に比べて北京では9個とやや少なかったものの、世界の舞台で活躍する日本人選手の姿に励まされた方も多かったのではないでしょうか。注目の北島康介選手は前回に続いて2冠を達成しました。北島選手は2冠を達成したにもかかわらず200mで世界新記録を出せず「ちょっと悔しい」と思ったそうですが、現状にとどまることなく、新たな記録に向けてチャレンジする選手たちのひたむきさが人々の心を打つのでしょう。

 ところで、教育行政においては変化よりも安定性が重視されると言われます。
 教育行政を首長ではなく教育委員会が担当する意義、すなわち教育委員会制度の意義は、(1)政治的中立性の確保、(2)継続性、安定性の確保、(3)地域住民の意向の反映の3つだと説明されます(文科省HPより)。それぞれ考えるべき点があるのですが、今回は、「(2)継続性、安定性の確保」について考えてみたいと思います。

 安定性の確保とは、次のように説明されています。
 「教育は長期の計画の下に一貫した方針で行われるべきものであり、それを管理する教育行政も一貫性、安定性が望まれるところである。したがって、(中略)委員が一度に交替することのないよう毎年一部ずつ改任することとされており、これによって、委員の任命を行う地方公共団体の長の交替によって、委員会の色彩が一度に変化することがないようにされている」(注)。
 ここでいう「委員」とは教育委員会を構成する教育委員のことです。すなわち、教育には一貫性が必要である、それを管理する教育行政も安定性が望まれる、このため教育委員会のメンバーが一度に交替しないようにしている、という説明です。
 (注)木田宏著『逐条解説地方教育行政の組織及び運営に関する法律』第一法規、1956年

 しかし、本当に安定性を重視すべきなのでしょうか。
 次のようなことまで述べられています。「教育は、結果が出るまで時間がかかり、その結果も把握しにくい特性から、学校運営の方針変更などの改革・改善は漸進的なものであることが必要」(文科省HPより)。
 教育において安定性を重視しなければいけないという固定観念が、本来変えるべき部分を改善する際の阻害要因になっていないでしょうか。たとえば、昨年、民間出身の校長先生方にアンケートをとったところ、「学校経営の面で苦労した点」という質問に対し、「前例踏襲・硬直的な教職員の考え方」という回答をした人が47人中12人でした。安定は現状維持であり、それは社会の変化との乖離につながります。

 最近の文部科学大臣はほぼ1年ごとに交替しています(渡海前大臣は在任約10ヶ月、伊吹元大臣は約1年、小杉元大臣は約11ヶ月です)。内閣改造あるいは選挙結果によって大臣が変わり得るのが国の教育行政です。これでは、教育行政に安定性が望まれているとは言えないのではないでしょうか。
 たしかに、たとえば学習指導要領を毎年改訂するとなると、そのたびに教科書をつくり直したり準備をしたりと混乱が生じることになります。このため、学習指導要領はほぼ10年の間隔を置いて改訂されています。このように安定性が望まれるケースもありますが、だからといってすべての面で安定的である必要はないでしょう。学校教育制度などの教育行政システムや財政システムについて、変えるべきものはやはり迅速に変えるべきです。
 学校運営についても同じです。時間割が毎月のように変わる、教える先生がコロコロと変わるとなれば、落ち着いて学習することができないのはうなずけます。しかし、授業における指導方法などは常に改善するものですし、学校行事や学校運営システムなどは毎年毎年見直しを行い、迅速に改善すべきものです。

 安定性が望まれる部分と迅速に改善すべき部分があるのはどの行政分野でも同じです。教育には安定性が望まれるという固定観念を廃し、改善に向けてチャレンジする姿勢が、子どもや保護者、国民の共感を得られると思います。

亀田 徹(PHP総合研究所主任研究員)

略歴:1991年東京大学教育学部卒業後、文部省に入省。教職員定数、大学改革、生徒指導、学校図書館、人権教育、著作権制度などを担当。98年から2000年まで福岡県教育委員で高校教育を担当。文部科学省生徒指導室長を経て、2006年PHP総合研究所入社。学校経営を中心に、学校教育および教育行政の研究に従事。

亀田 徹(PHP総合研究所主任研究員)

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