こうした姿勢は、いわば己の煩悩を効率よく追求するために仏教の考え方をつまみ食いするという、仏教徒ならずとも首をかしげざるをえないような内部矛盾を抱え込んでいるのではないか。ならば「仏教の三毒」などともったいをつけずに、「金持ち喧嘩せず」とでも居直ってくれたほうが、よほどすがすがしいように思うのだが。
「弱さ」を口にできない立場
現時点で、「勝間和代」に対する最大の批判としては、香山リカ氏の『しがみつかない生き方』(幻冬舎新書)がある。皮肉なことに本書はベストセラーになってしまい、それまで「ベストセラーが出せない」と愚痴っていた香山氏の願いを「勝間和代」が叶えてしまうという奇妙な事態を招いてしまった。
それはともかく香山氏は、本書で次のように書いている。
「私は、『がんばれば夢はかなう』とか『向上心さえあればすべては変わる』といったいわゆる“前向きなメッセージ”を聞くたびに、診察室で出会った人たちの顔を思い出して、こう反論したくなる。『あの人はずっとがんばっていたのに、結局、病気になって長期入院することになり夢は潰えたじゃないか』『両親とも自殺して、育ててくれた祖父が認知症になっている彼女が、どうやって向上心を出せばよいのか』」
私の担当している患者には勝間本の読者がほとんどいないので、香山氏が指摘するように勝間本を読んで「うつ」になっている人にはまだ会ったことがないのだが、勝間氏の本を読んでいると、たしかに「人間の弱さ」「だらしなさ」「理不尽な宿命」といった、人間性の重要な一部への配慮がきれいさっぱり切り捨ててあるように思われてならない。
そんななか、雑誌『AERA』が、勝間vs香山対談を企画したとのことで、さっそく読んでみた。いきなり冒頭からこんな応酬である。
「勝間 香山さん、家事は好きですか? / 香山 好きじゃないです、全然。/ 勝間 私、好きなんです。洗濯物がパリッとなったり、お皿がピカピカになったりするプロセスが大好き。自分の行動で物が変化するって、楽しくないですか。だから私、ご飯を食べて『ああ、おいしい』と思うだけで毎日が幸せです。今日も昼間、子どもの友達とお母さんたちがうちに遊びに来たんですが、デリバリーでとったサンドイッチがおいしくて、幸せでした。/ 香山 ご飯で幸せになれるんだったら、別に仕事で成功したり、資産を増やしたりしなくてもいいんじゃないですか。」
香山氏の指摘は、鋭い突っ込みというよりは、「ナイスボケ」的な皮肉が込められている。しかし香山氏はわかっているはずだ。勝間氏はもはや、こういうベクトルでしか発言できないキャラクターをつくり上げてしまっていることを。そう、彼女はもはや、現在形で「自分のダメさ」や「弱さ」を公式の場ではけっして口にできない立場にいるのだ。全国におそらく数十万人はいるであろう「カツマー」を失望させないためにも。
それにしても「起きていることはすべて正しい」といった究極のポジティビティは、何かに似ていないだろうか。私は不謹慎ながら、新興宗教の教義を連想してしまった。
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