トップ頁 > WEB連載 > WEB連載 藤巻健史の国富論 > 最終回 「マイナス金利」を導入せよ01

いよいよ2009年が始まった。株と為替から日本経済の現状を分析してみよう。
まず為替を見ると、現時点で円は「世界で最も強い通貨」といえる。
通常、為替が強いというのは「経済が強いこと」を意味する。国の景気がよく、金利が高いという理由で、世界中からお金が流入し、結果として通貨が上がる。したがって為替の原則論でいえば、円が世界で最も強いというのは「日本経済が世界一強い」証明であるはずだ。
しかし株の動きを見ると、まったく逆である。日経平均株価は、バブル期の最高値である3万8915円(1989年末の大納会時点)から約55%下落したのち、昨年1年でさらに42%下落し、8859円(2008年末の大納会時点)になった。昨年の日経平均株価の下落率は過去最大であり、先進国で見ると最高水準の下落率である。株という指標から見ると、「日本経済は先進国で最も弱い」ということになる。
為替を基準に考えるならば「日本経済は最強」であり、株を基準に考えるなら「日本経済は最弱」である。両方がともに正しいというのは、論理的に矛盾している。ならば為替の指標が間違っているのか、あるいは株の指標が間違っているのか。
私は、両方とも間違っていると思う。
すなわち円は強過ぎ、日本株は安過ぎである。為替と株のいずれも、日本経済の実態を正しく映していない。日本経済の実力は「世界最強」でも「世界最弱」でもないということだ。
そして、現在の値付けと実態がかけ離れているならば、円高と株安という現状は、投資家にとっては絶好のチャンスである。
本連載の第4回で記したように、私はいま金融株を中心として安くなった欧米の株を買っている。
これは昨今、日本企業が海外企業の買収に乗り出しているのと同じモチベーションだ。昨年10月時点で、日本企業が海外企業をM&A(合併・買収、出資を含む)した総額は約6兆7000億円に上り、前年同期の総額と比べて3・7倍となった(M&A調査・仲介企業レコフ調べ)。それは世界的な株安であり、なおかつ円高という好条件があるからだ。
戦略的な日本企業は、いまこそが吸収合併のチャンスだと見ている。私が欧米株を買っているのは相手の株の大半を買っているわけではないから、吸収合併という言葉は適切ではないが、メンタリティとしては同じである。現在をチャンスと考えるからこそ、大胆に株を買うことができる。現在の状態は「100年に1度の危機」といわれるが、私にいわせれば投資家にとっては「100年に1度のチャンス」だ。
第4回で記したように、アメリカを始めとする世界の金融当局は、サブプライムローン問題に端を発する金融システム不安に対して適切な手を打った。金融システム不安が峠を越したことによって、世界恐慌の可能性はなくなり、実体経済が金融危機に引っ張られてさらに大きく悪化する可能性は小さくなった。
安くなった欧米金融機関の株であるが、5年後も同じ価格であるはずがない。現状は「金融システム不安価格」だ。5年後には、潰れているか平常時価格に戻っているかのどちらかだ。平常時価格に戻るということは、大化けするということだ。倒産や国有化されそうもない欧米金融株は狙い目だ、と私は思うのだ。
もし今後とも株と土地の価格上昇がない、というのであれば、リスクを犯して土地や株を買う必要はない。だが、資産価格が大きく上がると考えるならば、土地や株をどこかで買っておかなければならない。買うのであれば、安いうちに買いたい。したがって現在はチャンスだというのが、私の考えだ。
マスコミの報道や識者の意見は、現在の経済実態であり、将来の話ではない点に注意が必要だ。昨年の新聞、テレビでは、日本経済と世界経済が悪化したというニュースが山ほど報じられた。トヨタが史上初めて1500億円の営業赤字に転落したというニュースや、日米欧の失業増加のニュースが繰り返し流されると、人々はますます経済の先行きに悲観的になってしまう。
しかし株価の動きを見ると、アメリカのニューヨークダウが2009年明けに9000ドル台に回復するなど、日米欧の株価下落は昨年11月に大底を打っていると見られる。冒頭に述べたように、株価を過度に信用するのは間違いだが、一般に株価というのは、実体経済を6カ月先行するといわれる。つまり株価がすでに反騰の気配を見せはじめたということは、ニュースから連想するほど世界経済や日本経済の見通しは暗くないということだ。
もちろん私自身、自分の見通しが正しいものであるか、つねにチェックしなければならない。
チェックすべき指標の1つ目は、アメリカの3大銀行であるシティバンク、バンク・オブ・アメリカ、JPモルガン・チェースの株価である(身近なところでは『日本経済新聞』の「夕刊」に載っている)。
アメリカの3大銀行の株価は、金融システム不安の終息度合いを見る大きな指標である。マスコミが何を書こうと、識者が何をいおうと、株価はマーケットの総意であるから、信頼度は高い。金融システムが本当に危ないのであれば、アメリカの3大銀行の株は下がりつづけるだろうし、金融システム不安が終わったのであれば、これらの株価は大きく上がるだろう。
2つ目は、ドル・円の動きである。この連載の第2回で書いたように、「円高になると株は下がる」。ドルと円をウォッチすることの意味は、日本経済の再生の行方を見ることである。ドルが上がり、円が安くなってきたら、日本株と日本経済の回復が進む可能性があるということだ。
3つ目は、鉄鋼業の「高炉」への設備投資である。最近よく聞かれる「企業が設備投資を控えている」というときの設備とは、じつは簡単に中止し、再開できるものである。
その点、鉄鋼の高炉というのは、建設コストが数千億円という巨額なものであるうえ、30年は使いつづける設備である。簡単にストップや再開ができるものではなく、経営者は短期的・景気的なうねりだけでなく、中長期的な景気見通し等に熟慮に熟慮を重ねて設備投資の判断を下さなければならない。
JFEスチールがブラジルで、住友金属工業がインドで高炉建設を行なう計画を進めている。もし高炉の建設中止のニュースが立て続けに流れるようであれば、景気はそうとう長期にわたって低迷する、と考えたほうがよい。現状では連鎖ストップの兆しはないが、高炉の設備投資についての報道には、今後も目を配っておくべきだろう。
4つ目が、個人のお金の動きである。日本の個人投資家は、ある意味でプロのディーラーより相場の転換点を見出しうる、ということだ。というのも、日本のプロディーラーはいわゆるサラリーマンディーラーが多く、成績が下がるリスクを恐れて他人と同じことしかしないからだ。資産デフレから資産インフレへと潮目が変わるターニングポイントを逃さず、チャンスを生かすのは、もしかしたら個人のほうかもしれない。
われわれ日本人は、本欄の第1回で述べたように「いかにして富を稼ぐか」、平たくいえば「何を生業にして食べていくか」を考えなければならない。2005年を境に、日本の経常収支に占める所得収支(株や債券などの資産がもたらす利息、配当)は貿易収支を超え、その差は年々広がっている。日本はすでに「モノをつくって売る国」から「投資の上がりで稼ぐ国」になっている。この事実を直視すべきだ。
日本人には金融資本主義やヘッジファンド、デリバティブ(金融派生商品)に対するアレルギーが強い。だが、ヘッジファンドやデリバティブがどれほど世界経済に貢献したかを考えなければ、フェアではない。ヘッジファンドの「右へ倣え」に反するような売り買いは、マーケットが下落したときに、マーケットの全面崩壊を避ける効果をもっている。昨年、日経平均株価が大きく下落したのは、デリバティブを駆使していない日本人の「一方通行」の投資行動が傷を深めたからだと思われる。
さらに、BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)があれほどの急成長を遂げたのは、金融資本主義によって、新興国に多額の資金が集まったからである。金融資本主義を否定し、新興国の人々の貧しさを持続させようという発想には、無理があるといわざるをえない。
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