田原総一朗(ジャーナリスト)
誰も手を挙げない民主党の情けなさ
民主党の前原誠司副代表に対し、「退場」を勧告する文書が、民主党の筒井信隆、篠原孝、山田正彦の三氏によって出された。前原氏が月刊誌などで参院選マニフェストについて批判したというのが、その理由である。
問題となった月刊誌のうちの1つは、『中央公論』の7月号での座談会で、これは私が企画・進行を務め、前原氏と自民党の与謝野馨氏との3人で語り合ったものであった。前原氏はこの座談会で、昨年の参院選で民主党が掲げたマニフェストの農家の所得補償などの政策に必要な財源は、行政改革だけでは捻出できず、「このまま民主党が政権を取っても大変です。私は『君子豹変』しないかぎり、まともな政権運営はできないと思います」と述べたのだった。
また、前原氏は『Voice』7月号にも論考を寄稿し、「批判・反対だけで政権をとっても、政権をとったときに困るだけだ」「民主党の政策に実現性がなく『やはりできませんでした』となるのが、最悪のシナリオである」と述べている。
先に挙げた筒井、篠原、山田の三氏は、このような前原氏の発言に対し、「参院選マニフェスト批判を自民党と一緒になって展開している。民主党の農業政策はバラマキだといえる精神は理解しがたい。次期総選挙を考えても看過できない」と批判したうえで、前原氏が民主党代表だった折に「偽メール事件で危機管理能力、問題対応能力のなさをさらけ出し党に多大の損失を被らせて辞任したことを思えば、謹慎蟄居こそ必要で、マスコミにこのような言動を公表する資格もない。出処進退を明らかにするよう勧告する」と述べたのである。つまり、議員を辞めろということである。
誤解してほしくないのだが、私は、三氏が前原氏の発言を批判したことや、退場勧告したこと自体をそれほど問題視しているのではない。日本は憲法で言論の自由、表現の自由が保障されている。まして政論を戦わせるべき政党のなかの話である。前原氏を批判したければ堂々とすればいい。小沢一郎氏が「けしからん」というのなら、それもいいだろう。
ただし、私にはどうしても看過できないことがあった。それは、前原氏と同じ意見のはずの議員たちが、誰1人として「自分も同じ意見だ」と手を挙げなかったことである。
民主党のなかには、前原氏と同じ意見をもった人が確実に30人以上はいる。少なくとも、私はそのうちの20人以上に会っている。
この問題が起きたとき、じつは私は何人もの民主党議員に直接電話をかけて、「あなたは前原氏と同じ意見ではないのか。なぜ手を挙げないのか」と理由を聞いた。答えは「いまは時期が悪い」「同じことをいえば、自分まで党内で浮いてしまう」というものであった。
小沢氏が怖いのかというと、そうではない。いってはいけない空気が、民主党のなかにある。それで何もいえずにいるという。これでは政党のなかに言論の自由や表現の自由がないも同じである。議員たちは沈黙を強いられ、前原氏はまったく孤立した状態にある。こういう民主党は嫌だな、と思う。いつのまにか民主党は、北朝鮮のような党になっていたのだ。いつから民主党は、そんな情けない政党になってしまったのだろうか。
これに比べれば自民党は、よほどマシである。もちろん自民党にも、たくさんの問題がある。だが、それでも言論の自由は残っている。渡辺喜美氏の公務員制度改革に対し、官房長官が反対したとか、党の改革推進本部が反対したといった話はある。だが、これについて渡辺氏が「困っている」とマスコミにいうことはできるし、反対派から「退場勧告」が出ることもない。さまざまな問題で侃侃諤諤の議論が行なわれている。これは、あっさりとみんなが押し黙ってしまう民主党よりも、はるかにいい。
小沢一郎代表の答えは「何とかなるさ」
『中央公論』7月号の座談会で私が聞きたかったのは、自民党と民主党と、それぞれ本当にやりたいことは何か、ということであった。いま自民党も民主党も、ごまかしばかり行なっている。正直なところはどうなのか。ぜひそれを聞こうと思った。自民党からは与謝野氏、民主党からは前原氏と、それぞれの党を解説するのにもっとも適した人物を呼び、語ってもらったのである。
与謝野氏に尋ねたのは、財政に対する自民党の考えだ。現在の日本は、収入50兆円に対し、支出が80兆円と、毎年30兆円の借金を重ねている。会社でいえば、いつ倒産してもおかしくない状態である。
これを変えるには、選択肢は2つしかない。1つは収入の増加、つまり増税である。マイナス30兆円をゼロにするには、消費税ならば12パーセントに上げる必要がある。ただし自民党は、消費税を上げれば選挙で負けると思い込んでいる。だから、なかなか上げられない。
もう1つの選択肢は、支出の減少である。これは社会保障費の減少を意味する。要は福祉や医療、介護、教育などの費用を減らす。これもまた国民が嫌がることだから、なかなか実行に移すことができない。
その典型が、後期高齢者医療制度をめぐる対応だった。日本の医療費は33兆円で、このうち75歳以上の後期高齢者の医療費が11兆円を占める。この11兆円を賄うにあたって、窓口負担で1兆円、税金で5兆円、現役世代の保険で4兆円を負担し、残る1兆円を後期高齢者の人たちに負担してもらおうというのが、後期高齢者医療制度の考え方だ。だが、まず厚生労働省は言葉をぼかすばかりで、きちんと説明しようとしない。それで国民のあいだに不満が高まると、自民党もあたふたしはじめ、年金の少ない人は9割減にするなど、修正を重ねていって、ますます訳のわからない制度になっている。
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