新総裁に求められる見識
今年の日本経済の行方を占ううえでもっとも重要なニュースは何か、と問われたら、私は3月に控える日本銀行総裁人事と答えるだろう。いうまでもなく、3月には福井俊彦総裁の任期が終了する。再任はないと考えられているから、その後任人事に関心が集まっている。
霞が関の論理では、これは最大の関心事の1つである。
普通ならば次期総裁の最有力候補は現在の副総裁、武藤敏郎氏である。元財務省の実力事務次官であり、この5年余り、執行部の一員として金融政策にかかわってきた。代々日銀総裁は、旧大蔵省の出身者と日銀内部の生え抜きが交互に任命されてきた。1998年に日銀法が改正されたからといって、この慣行がなくなったわけではない。
なお98年に日銀出身ながら民間企業に転出していた速水優氏が任命され、2003年には同じく日銀出身の福井氏が任命されたが、これは98年の日銀接待スキャンダルをめぐる引責辞任のもたらした例外状況である。本来ならば福井氏が98年に総裁に昇任する予定だったという。
しかし、現在は普通の状況ではない。昨年7月の参院選挙で自民党が大敗を喫したことで、事態は大きく流動的になった。民主党など野党は、参院で官庁出身の3名の審議会等委員の再任を否決した。これで官僚出身の武藤氏の昇任はかなり難しくなったといわれている。「ねじれ国会」のもと、通常は重要視されない日銀総裁人事が永田町の論理でもきわめて重要な案件になった。
だが重要なのは霞が関の論理でも永田町の論理でもない。すでに何度も言及しているように、景気の先行きに対してはかなりの懸念がある。
しかし、この「ねじれ国会」である。財政政策はややバラマキ型で推移するだろうが、大きな法案は決まらないだろう。
そして、グローバル化の進んだ現在、マクロ経済政策の中心は金融政策である。資本の移動が自由で為替が変動するならば、財政政策で景気を刺激しても、それは円高をもたらす。最終的には輸出が減って効果がなくなってしまう。短期的に財政政策に効果がないわけではないとはいえ、それに大きな期待はかけられない。
しかも、日本はいまだにデフレである。アメリカでもイギリスでも欧州でも中国でも、世界中の中央銀行がインフレ懸念と戦っているなかで、日本だけがデフレというのはやはり日本特有の原因があるとしか考えられない。新しい日銀総裁に求められるのは、このことを正確に理解する見識である。
個人的力量に頼る必要をなくせ
しかし、本当に日銀総裁人事は重要なのだろうか。
じつをいうと日銀の金融政策思想は時代遅れである。現在の日銀は裁量志向が強すぎる。日銀はせっかく政策審議委員の物価についての予測値を定期的に公表しながらも、それは目標ではないといっている。
こういう発想の下では、たしかに総裁の力量は重要になる。
しかし、世界の大勢はそうではない。変動相場制をとっているほとんどの国ではインフレ目標を採用している。これは一定の物価上昇率を明確に掲げて金融政策を運営するという仕組みであり、隣の韓国も採用している。
重要なのは制度的枠組みであり、総裁の力量ではない。
なお昨年10月、アメリカの連邦準備制度理事会(FRB)は、インフレ目標の導入を当面見送った。しかしこれは政治に配慮した側面が強い。
99年までハンフリー・ホーキンス法というものがあり、FRBは物価のみならず雇用にも配慮しなければならないことが義務付けられていた。この法律が廃止されてからも、議会には雇用を重視する雰囲気が強い。しかも、現在は上下両院とも民主党が多数を占めている。
もちろん、インフレ目標の基本思想は、物価の安定化をめざすことで雇用にも配慮するということだから、議員たちは誤解している。そしてバーナンキ議長はインフレ目標の導入をあきらめているわけではない。
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